今日は五苓散について気の向くままに書き留めたいと思います。
喉が渇いて尿量が少ないもので、めまい、吐き気、嘔吐、腹痛、頭痛、むくみなどをのいずれかを伴う次の諸症:水様性下痢、急性胃腸炎、暑気あたり、頭痛、むくみ、二日酔い等効能効果が書いてあるものが多いようです。
生薬の構成は、沢瀉、蒼朮、猪苓、茯苓、桂皮であり、ほとんど利水作用のある生薬で構成されています。
以前も書きましたが、子育て中には手元に持っていたい常備薬の一つです。子供の嘔吐下痢にも、少量のお湯に溶いて少しずつ飲ませるのがコツ、尿量も増え、脱水状態になることも我が家の子育て中はなかったようです。
妊婦さんにも、嘔吐や下痢が続くとき、整腸剤とともに処方すると早めに解決します。
余談ですが、二日酔いにも抜群の効果があります。飯塚にいたころ、懇意にしていただいているご家族の奥様から、日曜の朝に「先生、うちの主人が今日博多で大事な用があるのに二日酔いでどうにもこうにもなりません。何とかなりませんか?」と、玄関に来られ、家内が五苓散をぱっと持ってきて、「2包、お湯に濃いめに溶かしてゆっくり飲ませて。」と渡したことがあります。後日用事を何とか済ませることができたととても喜ばれました。私は下戸ですが、たまに日本酒を進められて飲んだりすると、途端に頭痛がし気分が悪くなります。そんな時も五苓散です。
妊婦さんには、妊娠後半期の解熱鎮痛剤の服用は慎重になる時期ですが、アセトアミノフェンだけでは頭痛が改善しないような人で、お天気頭痛のある妊婦さんには五苓散を併用してもらいます。熊本赤十字病院総合内科の加島先生から教えてもらったのですが、アプリのズツールを使用してもらい、「低気圧が来そうだ」「もうすぐ雨が降りそうだ」のお知らせの時には五苓散を頓用します。量の基準は頭痛時に五苓散2包で収まるのであれば、予防的な服用はその半分で有効だそうです。そうすると、痛み止めの服用量を減らすことができます。
妊婦さんだけではなく、生理周期に伴う頭痛にも有効です。生理前、黄体ホルモンの上昇に伴い体がむくみやすい時の頭痛、ついでにむくみの改善にも有効、生理中の頭痛も五苓散、同じ利水作用のある当帰芍薬散なども有効です。
若い人の中には頭痛薬をたくさん服用する人に時々遭遇しますが、薬剤性の頭痛を起こさないか心配になります。そのような時に五苓散や呉茱萸湯を紹介しますが、「粉は飲めない! 錠剤はないですか?」と言われ、錠剤はうちにはないこと、オブラートで上手に飲める方法をお伝えしますが、大抵撃沈してしまいます。その度に、製薬会社のプロパーさんに「早く錠剤を作って下さい。」とお願いすることになります。
頭痛に関しては五苓散だけではなく、呉茱萸湯、釣藤散なども効果があるので粉薬が飲める方は是非ご相談下さい。
そもそも五苓散は水分代謝調節作用を持つ漢方薬の代表製剤であり、尿量増加作用の強い薬剤でありますが、これらは西洋医学的な利尿薬と異なり、血漿中の電解質濃度への影響が少ないことがわかってきました。近年になって細胞膜の水透過性を調節する13のアイソフォームを持つアクアポリン(AQP)と呼ばれる水チャンネルが見いだされ、五苓散のAQP4に対する作用などが研究されています。その応用として、脳出血、脳梗塞、脳腫瘍、外傷などを伴う脳浮腫や慢性硬膜下血腫に対して五苓散が使用され脳浮腫が軽減されやすく血腫が縮小し、しかも脱水が起きにくく脳外科領域で多用されているそうです。私事でありますが、転倒して頭にたん瘤を作った時にはすぐに五苓散を1週間ほど服用するようにしています。
その基礎的な研究をされているのが、東京理科大学薬学部の磯濱洋一郎教授で熊本に講演に来られた時に勉強させてもらいました。個人的に話す機会があった時に、衛生的な水が確保できない地域で子供が下痢嘔吐を起こすことがあるが、五苓散は届かずとも、小豆を栽培して小豆のエキスとか煮汁を飲ませると効果があるのではないだろうか、と話されました。小豆にはマンガンが比較的多く含まれていて、五苓散の構成処方の蒼朮にはマンガンが含まれており、これがAQP4に作用し、五苓散の利水作用を担っているそうです。これからは私の私見ではありますが、小豆は昔より、「妊娠した娘には小豆を湯がいて食べさせよ。」と代々伝わる家があったようで、妊娠して里帰りした娘さんに「小豆を焚いていつでも食べられるようにしています。」と神社の奥さんが話されたのを覚えています。つわり、妊娠中毒症(現在では妊娠高血圧症候群)等に予防効果があったのかもしれません。おばあさんの知恵袋、生活の知恵ですね。